ネット住民がブームをもたらすブロードウェイ

『ビー・モア・チル』 
Photo:Maria Baranova 

近頃はニューヨークの劇場街ブロードウェイの観客の半数がインターネットでチケットを購入するのだという。
それゆえに、従来のテレビや印刷物などに加え、インターネット上での宣伝を多くの舞台作品が重視するようになってきた。
こうした中、昨今はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログ、そして動画共有による宣伝効果が注目されている。こうしたサービスを利用して知名度を高めることを大ヒットへの踏み台としたミュージカルも登場。
誰もが簡単に情報を発信できるインターネットを活用するという発想の転換が新時代の人気作品を誕生させる鍵を握っていた。

毎年ブロードウェイで幕を開けた舞台作品を対象に授与されるアメリカ演劇界の最高峰トニー賞。
2016年、そして2017年とミュージカル部門の最優秀作品賞に輝いたのは、インターネットの活用によりファンを増やし脚光を浴びた作品だった。

『ハミルトン』 
Photo:Joan Marcus 

2016年に作品賞を獲得したのはミュージカル『ハミルトン』。
米10ドル紙幣に顔が印刷されているアメリカ建国の父の一人アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた伝記物だ。
劇中の舞台となる建国当時、アメリカの政府要人には存在しえなかった黒人や中南米系のマイノリティが、敢えて歴史的登場人物に扮し出演しているのが特徴となっている。

『ハミルトン』
Photo:Joan Marcus

同作品がブロードウェイで上演を開始した2015年の夏は、その年の秋に向けてのアメリカ大統領選が繰り広げられていた。
そんな中、民主党のヒラリー・クリントン候補は同作品からの歌詞を引用し、対抗する共和党のドナルド・トランプ候補との議論を展開する。
また当時の民主党オバマ大統領は同ミュージカルを2回観劇し話題を振りまく。
さらに民主党は同作品の公演を貸し切って選挙の資金集めのイベントを開催、出演者には人種のマイノリティが多いことからも、白人至上主義を推進するトランプ候補に対抗する形となった。
こうした出来事を主人公ハミルトン役の俳優が中心となり事細かくインターネットのツイッターでつぶやき、それにより作品そのものが演劇界の枠組みを超えて若者のネット住民の関心を集め空前の大ヒット作へとなっていったのだ。

『ディア・エヴァン・ハンセン』 
Photo:Matthew Murphy 

2017年のトニー賞で作品賞を受賞したミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』でもインターネットの活用が成功の秘訣だった。
同作品の楽曲を手掛けたのはミュージカル映画の『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』で今ではその名を不動のものとした作詞作曲家コンビのパセク&ポール。
そんな彼らは大学で演劇を専攻していたころから作詞作曲をするようになり、インターネットを使って名声を高めていったことで知られる。

彼らが学生だった2005年に動画共有のYouTube(ユーチューブ)がサービスを開始すると、自分たちの楽曲を積極的にオンラインにアップしていた。さらに、当時は立ち上がったばかりで大学関係者だけのものだったSNSのFacebook(フェイスブック)を有効活用。
まだ利用者が限定され、出回る情報も少なかったフェイスブック内で自分たちが創ったミュージカルの情報を発信し、同世代の学生の興味を惹きつけていった。
若者の崇拝者の多い2人が、高校生の青春物語を描いた作品として世に送り出したのがミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』となり、おのずと期待が募っていったのだ。

『ディア・エヴァン・ハンセン』より

他人と接するのが苦手な17歳のアメリカの高校生エヴァンが、自殺した同級生について実際には起こらなかった嘘の発言をし、それがSNSで発信され、ネット上で大きな関心を集めて収拾がつかなくなるというのが大筋。
自分の殻に閉じこもりがちな青年が、突然多くの人々と接することを余儀なくされたときにどう行動するのかを問う社会派の作品となっている。

ネット社会において誰にでも起こる可能性のある内容だったことから、作詞作曲家はツイッターなどで創作活動の進捗状況を事細かくつぶやいた。
案の定、物語の主人公に共感する若者が徐々に増えていき、2016年にニューヨークの小劇場での上演が実現。その頃には作品の認知度が高まり、期間限定公演のチケットは全てソールドアウト。
同年末にブロードウェイの大劇場に昇格し、高校生などの若年層やその親たちに絶大な支持を受け大ヒット作となったのだ。
主人公のエヴァン役の俳優は、こうしたファンの若年層に崇められ、TIME誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に選出されたほど。