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ブロードウェイの新しいトレンドは小劇場

影山雄成のバックステージ・ファイル

寄稿/影山雄成

『スモーキー・ジョーズ・カフェ』
Photo:Joan Marcus

年末の派手なカウントダウンでおなじみのタイムズスクエア周辺には41の大劇場が密集する、そこがニューヨークのブロードウェイ。
毎年、多くのミュージカルが演劇界の頂点と位置づけられるこの場所で幕を開ける。しかし、この劇場街での上演に至っても、興行的に成功を収める作品はごく一握り。
数多の作品が赤字を抱えたまま閉幕に追いやられる。ブロードウェイの協会や労働組合から課される規定による莫大な上演経費が足かせとなっているからだ。
1週間に1作品平均で60万ドル、日本円に換算しておよそ6700万円のコストがかかる。
たとえ最初はチケット売り上げが好調で製作費を回収できたとしても、同じ状況を維持できず観客が離れてしまえば、すぐに赤字転落となってしまう。
そんな中、この悪循環から一風変わった方法での脱却を試みて成功した例が新たなビジネスモデルとして定着しつつあった。

『アベニューQ』
Photo:Carol Rosegg

上演コストを抑えることに成功した最初の例はミュージカル『アベニューQ』だ。
映画『アナと雪の女王』の挿入歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」の大ヒットによりその名を馳せた作曲家の初期の作品で、2003年にブロードウェイで開幕した。
米演劇界で最も権威のあるトニー賞では下馬評を覆して作品賞を獲得し、それにより大人気作へと昇進する。800席のブロードウェイの劇場でのロングラン公演を続け、短期間で製作費を回収した。
しかし年数が経つとともに、客足が落ちていく。
同性愛や政治、人種問題などのテーマを扱う比較的に地味な物語に加え、出演者がわずか7人という小規模な作品というのがその理由。派手なミュージカルを好む傾向がある大方の観光客の興味を引き寄せられなくなっていったのだ。
客席の半分も埋まらない公演となることもあり、他のミュージカルに比べて少ないとはいえ、週35万ドルの上演経費が重荷となり、ロングラン継続を難しくしていた。

『アベニューQ』
Photo:Carol Rosegg

通常ならば即閉幕の運びとなるが、プロデューサーは一計を案じる。
ピーク時ほどではないが、6年にわたるロングランにより作品の知名度を高めたため、経費さえ抑えることができれば細々と上演を続けられると判断。いったん上演を打ち切り、実質はブロードウェイからの降格となるオフ・ブロードウェイの小劇場への“引っ越し”を決断したのだ。
プロデューサーがこだわったのは引っ越し先をブロードウェイ界隈にある小規模な劇場にするということ。もとの場所から近い劇場で上演していれば、演劇事情に詳しくない観客は、ロングランがあたかも続いているかのように感じるからだ。

こうして499席の小劇場への移動により労働組合などの団体との規定から解放された。
演奏を担うミュージシャンを2人減らし、裏方スタッフをそれまでの3分の1以下にするなど多くの人員を削減。宣伝費や劇場の使用料も安くなり、チケットの設定金額を低くすることも叶い、上演コストは以前の半分にまでなった。
もともと規模が小さい作品であったために劇場が小さくなっても見劣りしない舞台だったことも幸いし、ブロードウェイ時よりも長いロングランを現在も続ける。

『ジャージー・ボーイズ』
Photo:Joan Marcus

このブロードウェイからの引っ越しによる生き残り策に倣ったことで上演継続を成功させたもう一作品がミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。
実在したアメリカのグループ、フォー・シーズンズの歩みを描いたこの作品が劇場街で初演されたのは2005年のこと。
「シェリー」や「君の瞳に恋してる」などグループによるヒット曲で物語を紡ぐ内容だったことから、団塊の世代の支持を得て瞬く間に大ヒット。映画化もされ、日本も含めアメリカ国外でも上演された。
しかし、ブロードウェイではその後に同じ世代をターゲットにした模倣作品が次々と登場、心的飽和感からロングラン10年目を迎えて以降は客足が伸び悩むこととなる。
1228席の大劇場では持ちこたえることが難しいと判断したプロデューサーは、作品の規模を小さくし、小劇場に移ることを決断。

『ジャージー・ボーイズ』
Photo:Joan Marcus

キャストの人数を減らし、メイン以外は全員が複数の役を掛け持ちするなど全体にメスを入れた。舞台装置もデザインは同じままで、初演当時には演劇界であまり使用されていなかったLEDパネルを新たに導入。そのLEDパネルの映像を使うことで背景幕などの大道具の数を減らし小劇場のスペースに合わせた。
サイズが小さくなっただけで、以前と比べても見劣りせず、客席とステージの距離が縮まり以前より臨場感があると大絶賛される。

Photo:Max Touhey

ちなみに『ジャージー・ボーイズ』が好調な引っ越し公演を行うのはブロードウェイ界隈にある複合劇場施設で、同じ施設内の別の劇場で『アベニューQ』も上演されている。
元々ここは準新作の映画を格安の入場料で上演するシネマコンプレックスだったが、映画公開からDVD化への期間が短くなったことで経営が悪化し閉館に追いやられた。
廃墟となっていた建物を買い取った投資家が大改装し、5つの劇場が入る複合施設へと生まれ変わったのだ。倒産した元映画館が、ブロードウェイで立ち行かなくなったミュージカルの引受先になっているという皮肉は米演劇関係者の間では語り草。
これからもこの天下り先に保護を求めてくる作品が増えるのではないかというのが多くの見方だ。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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