首藤正治のボローニャ滞在記③

ベネツィア

イタリアで発信される日本の文化力

ボローニャには「チネテカ」という映画関係の公的機関があります。
ハリウッドも含め各方面から依頼を受けて古い映画フィルムの修復などを行いますし、毎年夏の恒例行事として10万人を集客する「ボローニャ復元映画祭」を主催するほか、各種資料や7万点を超える映画フィルムを保管所蔵する映画文化の総合拠点ともいうべき施設をも持っています。

チネテカで林監督と 

ここで先日、日本人映画監督の林弘樹氏を招いて、彼の近作「惑う~After the Rain」の上映・トークイベントが開催されました。
林監督はこれまで北野武さんのもとで助監督を務めたりしてキャリアを積み、昨年の秋から1年間、文化庁の推薦を受けてベネツィア大学で映画制作を教えてこられました。
パオラ先生やフランチェスコ先生といっしょに参加しましたが、普段エンターテインメント映画ばかり見ている自分が恥ずかしくなるくらいこれが素晴らしい映画でした。日本各地で自主上映会が開かれているようですから、ぜひ延岡でもと思ったところです。
夜の食事会の際に林監督から「うちに遊びに来ませんか? ディープなベネツィアをご案内しますよ」とお誘いいただき、その「ディープなベネツィア」というイメージになんとも心惹かれたので、ここは遠慮なくお言葉に甘えることにしました。

昼と夜で表情を変えるベネツィア

ボローニャからは高速列車で1時間半足らずで到着。
ホームまで林さんが迎えにきてくださって、夕方からは街中のところどころで飲み食いしながら島内をそぞろ歩きました。ちょっとそこらの店に立ち寄っては、1杯だけワインかスプリッツというベネツィア定番の酒を呑んでまた歩く。運河の街ベネツィアはどこの街角でどっちを見ても絵になります。

最後は疲れてヴァポレットという水上バスに乗って帰りましたが、酔っ払ってベネツィアの中心部から外れた細い路地を歩いていると、ふと島野浦の路地を思い出してしまいました。島の街の面影というのはどこかしら似てくるものなんでしょうね。
その夜は林監督のご自宅に泊めてもらい、翌日はベネチアングラスで有名なムラーノ島に、林さんとともにその友人の土田康彦さんを訪ねました。ヴァポレットで30分ほどの距離です。

土田康彦さん(真ん中)のアトリエで 

これに先立って少しいきさつがあったものですから、実は僕はこの訪問を楽しみにしていました。
というのは、2カ月近く前になりますが、友人の中嶋山鹿市長にお誘いをうけて熊本県山鹿市の灯篭祭りに参加したことにさかのぼります。
大きな祭りですから会場周辺は数万人の人出でごった返していたのですが、ふとすれ違った人と目が合いました。岡山県高梁市の近藤市長です。順正学園の姉妹校所在地ということで以前から親しくしていましたので、偶然の出会いにしばらく話に花が咲きました。
「来月からイタリアに行くんですよ」と言うと、「高梁出身でベネチアングラスの工房をやってる人がいるんで紹介しますよ」・・・・・・それが土田さん。
さらにもう一つの偶然がありました。エンジン01でお世話になりそれ以降交流のある辰巳琢郎さんからも、「ベネツィアに行かれるなら仲の良い友人をご紹介します」とラインが来ていたのです。・・・・・・それが土田さん。
こうもいくつもご縁が重なるというのは不思議なことです。
その土田さんは20代からベネツィアに移り住んでおられましたが、ガラス制作に携わるなか、ムラーノ島の大きな工房であるスキアヴォン・ガラス社の令嬢と結婚されて同社のアート・ディレクターに就任。その後さまざまな国際的な賞を受賞されながら現在はベネツィア・ガラス研究所理事長も務めておられます。

ショールーム 

ショールームで見せていただいた数々の作品はまさに圧巻でした。そしてご本人は気さくな芸術家であり、ガラス工芸の世界にとどまらず実業界や日本の有名ロック・アーティストなど各方面に人脈豊富な方でした。
ガラス工芸と言えば、宮崎県内でも綾町を拠点に活動しておられる「現代の名工」黒木国昭さんが有名ですね。
黒木さんが以前ベネツィアで展示会を開催された時の話をご本人からお聞きしていましたので、土田さんにご存知か尋ねたところ、「素晴らしいと思いますよ」とおっしゃっていました。国は違えども、一つの道を極めることは相通じるものがあるのでしょう。

マッジョーレ広場 

ところで、ボローニャは交通の要衝ですから、電車で30分のフィレンツェやモザイクで有名なラヴェンナなど近隣の街にも足を伸ばしていますが、離れてみてこそ、街の個性を実感します。海外に行ってみて日本の良さが良くわかるのと同じ道理ですね。
一言でいえば、ボローニャは活気のある街です。人口40万人程度とは到底思えません。人口でいえばフィレンツェとほぼ同じ規模ですが、ボローニャのほうがずっと強い活力にあふれています。
観光客が多くて賑やかなのとは違う活気、住民の暮らしの中での活気がこの街にはあると感じます。
休日になると、特に目的があってというわけではなさそうですがマッジョーレ広場にみんなが集まってきて、そこら中で立ち話をしたり教会の階段などに座り込んでくつろいでいます。土曜日や日曜日には何かしら必ずイベントをやっていて、なんと大道芸人の多いこと。
学生の街だからということもあるのかもしれません。そういう賑わいに引き込まれるように市外からも多くの人が訪れます。

 

 

ただ、この活気は自然発生的なものではありません。
しょっちゅう市や各種団体がさまざまなイベントを仕掛けているのが傍目にもよく分かります。言いかえれば、市民と行政がいっしょになって努力してきたことの成果がここにあるのです。
その好例が今回ご紹介したチネテカの取り組みでした。
そして、まさにそうした場で林監督と知り合ったことは偶然ではないのではないか・・・。
彼の評判を高めた前作「ふるさとがえり」は住民の絆と地方の活力の物語。僕のライフワークと考えている(ソーシャルキャピタルという観点での)「地方都市の活性化」とも符号が合いすぎる。
僕自身は大学という新たな活動の場を得たばかりですが、今後自分が追い続けるべきテーマがはっきり見えてきたようにも感じています。
(つづく)

首藤正治
大正大学客員教授・前延岡市長

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