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故人への想いとともに前進するミュージカル

影山雄成のバックステージ・ファイル

寄稿/影山雄成

(左上)Photo:Joan Marcus
(右上)Photo:Julieta Cervantes
(左下)Photo:Matthew Murphy
(右下)Photo:Jeremy Daniel

マンハッタンの中心タイムズスクエアがある地区では、2021年の秋からレストランの開業が急増している。
理由は、周辺に密集するブロードウェイの劇場がパンデミックによる1年以上に及ぶ閉鎖を経て昨年の夏に本格的に再開し、観劇前後に利用できる飲食店の需要が高まったからだ。

オミクロン株が原因となる出演者のブレークスルー感染によって休演を余儀なくされる作品が相次ぎ暗雲が立ち込めたが、2022年の1月中旬には落ち着きを取り戻し、徐々に増えつつある観光客を迎える準備が着々と進む。

ブロードウェイが飛躍的に回復し、にぎわい始めたのは2021年9月初旬、540日ぶりにミュージカル作品が上演を始めてからのこと。
劇場街が本領を最大限に発揮するミュージカル復活で、メディアが一斉にブロードウェイの話題を報じ、再び人々が集うようになっていった。

18カ月のブランクを経て劇場街で上演を開始し脚光を浴びるミュージカル作品の中には、他界した作品の関係者を偲び、その功績を称えるという共通点を持つ3作品も含まれ、久々に劇場を訪れる観客の心を動かした。

『Waitress』(中央が主役のサラ・バレリス)
Photo:Joan Marcus

2021年の9月に入って間もなくして先陣を切り2作品のミュージカルが同日に上演を開始したが、開演時間が1時間早かったことから実質一番乗りとなったのが『ウェイトレス』。
2007年の映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』を原作とし、レストランで働くパイ作りの名人の女性が妊娠を経て成長していく過程を描いたミュージカルだ。

Photo:Joan Marcus

この作品は、パンデミックによるブロードウェイ閉鎖の少し前に、4年近くに及ぶロングラン公演を終え、既に幕を閉じていた。
ところが、ブロードウェイで演出・脚本・作詞・作曲、そして振り付けの主要スタッフ全員を初めて女性が担当した革新的なミュージカルであることにプロデューサーが着目。
未来を見据えた劇場街の再出発の門出を飾るためにリターン公演を行うことを決定する。

Photo:Shervin Lainez

この作品の作詞・作曲家本人である人気シンガーソングライターのサラ・バレリスが主役のウェイトレス役を演じるというのが、今回の公演の目玉。
それと同時に、パンデミック中に同作品が行った試みが、今回のリターン公演で大きな役割を担った。
パンデミックが始まって間もなく、このミュージカルはインターネット上で大きな話題となる。

2016年のブロードウェイ初演の際にオリジナル・キャストとして準主役を演じた人気男優が新型コロナウイルスに感染し重症化。
これを受け、過去に『ウェイトレス』 に出演した役者やスタッフたちが動いた。
闘病中の男優が手掛けた人生讃歌でもあるオリジナル曲「Live Your Life(自身の人生を歩め)」を、同作品にゆかりのある関係者がリモート参加で歌うミュージックビデオを公開、支援を呼びかけたのだ。

リモートで制作された「Live Your Life」

男優は、その後間もなくして合併症により41歳の若さで亡くなったが、関係者によるキャンペーンが功を奏したこともあり、「Live Your Life」は新型コロナウイルスに立ち向かう曲として認識され、彼の妻が執筆した回顧録のタイトルにもなった。

今回のリターン公演では劇中の重要な場面で、パイ作り名人のヒロインが焼くという設定のウェディングケーキが登場するシーンに台詞が追加される。
それは、特製ウェディングケーキ型のパイの名前が、人生を謳歌するよう促す“「Live Your Life」パイ”だという内容のもの。
さらに、レストランの舞台装置に掲げられた店内のメニューボードの最初に、このパイの名前が加えられた。

初日のカーテンコールではスペシャルゲストとして、4年目の結婚記念日となるはずだった日に夫を亡くした男優の妻がステージ上に迎えられる。

主演で作詞・作曲を手掛けたサラ・バレリスが、今後は彼への想い出とともに作品が歩んでいくのだと誓い、観客にも参加を呼びかけ、全員で「Live Your Life」を合唱した。

再開初日のカーテンコール
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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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