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ブロードウェイ再興を後押しする新名所

影山雄成のバックステージ・ファイル

寄稿/影山雄成

(上)Photo:Monique Carboni

ブロードウェイがパンデミックによる長期閉鎖を経て、2021年6月に再開してから間もなく2年が経とうとしている。
この間に劇場街で目立ったのは、ブロードウェイが演劇産業の中心であることを鼓舞する動き。そして偶然にも、そんな動きに賛同するかのように、演劇愛に溢れた新たな観光スポットが順次オープンする。
こうした新名所は、回復途中のライブエンターテインメント界全体を盛り上げ、熱心なファンをはじめ、多くの人々を劇場へと惹きつけていった。

ドラマ・ブックショップ
Photo:Drew Dockser

長年にわたり、ブロードウェイを志す人々にとっての聖地といわれてきたのが、1917年に創業した演劇専門書店の「ドラマ・ブックショップHP)」。

2011年には、アメリカ演劇界で最も権威のあるトニー賞の特別賞が授与されたほどの名店だ。
ありとあらゆる戯曲やミュージカル作品の台本、楽譜、そして多岐にわたる資料本が揃えられ、来店者の立ち読みも自由、プロやアマチュアを問わず演劇人たちに親しまれてきた。
さまざまなリサーチができる資料の宝庫と称されるだけに、著名人を見かけることも珍しくはない。

ところが、オーナーの高齢化に加え、建物の劣化、そして家賃の高騰が原因となり、書店は2018年に存続の危機に立たされる。
閉店しか選択肢が残されていないかにみられたが、そんな老舗に今のブロードウェイを牽引するアーティストたちが救いの手を差し伸べた。

『ハミルトン』
Photo:Joan Marcus

一世を風靡した人気ミュージカル『ハミルトン』の生みの親リン=マニュエル・ミランダと演出のトーマス・カイルが発起人となり、同作品のプロデューサーと、上演劇場を所有する団体の代表が賛同、新オーナーとして名乗りを挙げたのだ。


リン=マニュエル・ミランダ/Instagram動画

リン=マニュエル・ミランダと演出家トーマス・カイルが店の権利を取得したいと考えた理由は簡単で、自分たちがプロとして成功したのは、苦学生だった頃に演劇の書籍を店内で読み漁れたためだと信じるから。
また2人は同書店で出会ったことがきっかけでコラボレーションをはじめ、ヒット作を生み出してきたという経緯があり、なおさら思いは熱い。

こうしてパンデミック期間中の準備を経て移転、ブロードウェイの再開の見通しが立ってきた2021年6月に満を持して再オープンした。
新生「ドラマ・ブックショップ」は、演劇人だけにターゲットを絞らない。書店のオリジナルグッズも増やし、観光の一環として誰もが立ち寄り、くつろぐことが可能な場所を模索する。

トーマス・カイル、デヴィッド・コリンズ/Times Square NYC

インテリアをデザインしたのは、ミュージカル『ハミルトン』といったブロードウェイ作品やアカデミー賞授賞式など、様々な舞台装置を任されてきたデヴィッド・コリンズ。
19世紀ヨーロッパのカフェをモデルに、落ち着いて読書ができる空間を追求していった。

入り口からは、古代ギリシャの演劇資料に始まり、昨今のミュージカル作品の脚本に至るまで、書籍が時系列順に積み上げられたタワーが目を引く。
数千冊が重なり、総重量は1.6トンになるその書籍のタワーは、店内の天井をうねるように駆け巡る斬新なデザインだ。

Photo:Drew Dockser

壁には100枚以上のブロードウェイ作品のポスターが飾られ、こだわりのカフェでは軽食も用意する。
またソファーや、ミュージカル『ハミルトン』の劇中で使用される椅子のレプリカが置かれた一角もあり、時間をかけて書籍を閲覧できるようにした。
100年以上の歴史を持つ演劇人たちの憩いの場が、新たな歩みを進めていく。

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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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延岡バックステージ
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