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15.スティーヴン・シュワルツに沸く冬

影山雄成のバックステージ・ファイル

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』でアカデミー賞に輝いた若手女優アリアナ・デボーズ主演で大ヒットしたのは、スティーヴン・シュワルツが1976年に手掛けた作品のリバイバル公演となるミュージカル『ベイカーズ・ワイフ』。

オフ・ブロードウェイの199席の小劇場での上演であることと、主演女優のネームバリュー、また約2か月間の期間限定公演、さらにはメディアの大絶賛を受け、連日のソールドアウトが続いた。

『The Baker’s Wife』
Photo:Matthew Murphy and Evan Zimmerman

同作品はマルセル・パニョル監督による1938年のフランス映画『パン屋の女房』が原作。

舞台は1935年フランスのプロヴァンスの田舎、村で唯一のパン屋が亡くなって間もなく、人々がパンを口にすることができなくなり困っている。そんな村に引っ越してきたのは新たなパン屋と、年下の美しい妻で、村民は再びパンを食べられるようになったと大喜び。
ところが、ひとりのハンサムな青年がパン屋の妻を誘惑、彼女は彼と駆け落ちしてしまう。大切な妻がいなくなったことから、気力をなくしたパン屋は飲んだくれて仕事ができなくなり、再び村民はパンを口にできなくなり大騒ぎに。しかし、最後には妻が自分の行いを悔いて村に帰ってくる。
こうしてパン屋は再び活況を呈するようになり、村に平穏な日々訪れるという流れだ。

Photo:Matthew Murphy and Evan Zimmerman

同作品は1976年にブロードウェイを目指してのアメリカの地方を巡業する試験的なトライアウト公演を行ったが途中で頓挫したことで知られている。
ブロードウェイの上演劇場がすでに決まり看板まで掲げられたものの、制作陣の間での意見の食い違いが絶えず、作品が纏まらない事態に陥り、主演女優の降板なども相まって上演打ち切りとなってしまった。

お蔵入りとなることが確実だったミュージカルだが、上演打ち切りの数か月後にキャスト盤の録音がリリースされ、そのことが作品そのものを救う。パン屋の妻が駆け落ちを決める際に歌うソロ「メドーラーク(Meadowlark)」が名曲だと話題に上り、他の楽曲とともにファンを増やしていった。

Photo:Matthew Murphy and Evan Zimmerman

こうして、ブロードウェイでの上演は未だ実現には至っていないが、台本に手を加えつつイギリスやアメリカの地方で上演され根強いカルト的な人気を誇っていく。
とはいえ、台本に改定を繰り返すものの、ほのぼのとしすぎた内容や感情移入がし難い登場人物など、作品そのものが抱える多数の問題の全てを解決することはこれまで一向に叶わなかった。常にメディアからは高く評価されることのない曰く付きのミュージカルという認識が払しょくできないままだったのだ。

『ベイカーズ・ワイフ』の舞台デザイン画像
ステージ上にも観客が座る椅子がある
Photo:Allison Stock

今回は、台本の見直しと同時に観客と出演者が密接し温もりのある上演となり劇評家たちも脱帽、チケットが高額で取引される年末のニューヨーク演劇界一番の人気作へと昇格。スティーヴン・シュワルツの失敗作が名作として返り咲き、初演からおよそ半世紀をかけての汚名返上となった。

Photo:Valerie Terranova

来年の2026年にはブロードウェイのスターたちが集い、スティーヴン・シュワルツの書いた名曲の数々を歌うコンサートが開催されることが決定している。
そして3月に入ると、映画『ウィキッド 永遠の約束』が日本で封切られる予定。

ところで、彼の息子は演出家のスコット・シュワルツで、父親の携わった作品を手掛けたことも多々ある。
その代表例が父親が作詞したディズニー・ミュージカルの『ノートルダムの鐘』となり、同作品は日本で大ヒット。その際に築いた劇団四季とのつながりにより演出を手掛けることになったのが、大阪で現在ロングラン中のミュージカル『ゴースト&レディ』。

シュワルツ家の父子はこれからも日米双方のエンターテインメント界を盛り上げていきそうだ。


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書いた人:影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

影山雄成(KAGEYAMA,YUSEI)

演劇ジャーナリスト。 延岡市出身、ニューヨーク在住。 ニューヨークの劇場街ブロードウェイを中心に演劇ジャーナリストとして活躍。アメリカの演劇作品を対象にした「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員。夕刊デイリー新聞で「影山雄成のバックステージ・ファイル」を連載中。

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